医療法人 羅寿久会 浅木病院|福岡県遠賀郡遠賀町|神経内科|リハビリテーション科|内科|消化器科|循環器科

 

論文・学会・研修報告

 

論文・学会・研修報告

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左前頭葉梗塞による右上肢の強制把握を呈した一症例に対する ADL 上の工夫
2016-11-30
 【はじめに】

左前頭葉梗塞による右上肢の強制把握を認めた症例を経験した。これまで、強制把握が ADL に及ぼす影響や改善 への試みに関する報告は少ない。今回、ADL 場面で更衣、歩行(伝い歩き)、トイレ動作の両手を使用する動作に おいて、強制把握が障害となった為、それに対する工夫点や改善効果について報告する。

 

【症例】
80 歳代、女性。右利き。独歩で ADL も自立しており、物忘れなどもなかった。X 年左前頭葉に脳梗塞発症。26 病日目に当院転院。右片麻痺を認め、Br.Stage(上肢-手指-下肢)II-III-IIであった。麻痺の改善に伴い、37 病日目頃より右手に強制把握が出現。手を開放するように命じても開放することができないほど、把握反射の程 度は強度であった。なお、本報告を行うにあたり、本人に口頭および書面にて同意を得ている。

 

 

【強制把握と ADL の関係】

山鳥はベッド柵や布団の端などをいつもつかんでいる、一旦つかんだものは自分で はずすことが出来ず、反対の手を使って指を一本一本引きはがすことがあると述べ ている。症例も強制把握の出現により、握ってしまった右手を左手で引きはがす動 作が認められ、本人からは「また握ってしまった」「離せない」等の発言があった。 更衣動作では、右上肢の袖を通す途中で強制的に衣服を把握してしまい、通すこと ができず、時間や介助を要す状態であった。歩行(伝い歩き)では、左手のみで手す りを使用して開始するも、右手が目の前の手すりを強制的に把握してしまい、持ち替 えることが困難となり進むことができなかった。トイレ動作では、両手で下衣操作を 行おうとし、右手が下衣をつかんでしまい、下衣操作が困難であった。また、歩行、 トイレ動作時に次の動作に進むため、左手右手を一本一本引きはがそうとし、立位バ ランスが不安定となり、転倒の危険性があった。

 

【強制把握に対しての工夫】

 更衣・歩行(伝い歩き)では、強制把握が出現する右手にタオルを把握させて実施した。更衣ではタオル把握さ せていることにより、途中で衣服を把握することなく実施でき、着衣時間が短縮した(3 分 10 秒から 1 分 15 秒 に改善)。歩行(伝い歩き)では左手で手すりを把持し、止まることなく監視で可能となった。トイレ動作は強 制把握を利用し、右手で手すりを把持することにより、立位バランスが安定し、左手での下衣操作が監視で可能 となった。更衣・歩行(伝い歩き)・トイレ動作において介助量の軽減を図ることができた。

 

【考察】 強制把握は両手を使用する動作において障害となった。更衣・歩行(伝い歩き)では、右手にタオルを持たせ、 強制把握を制限することで、動作をスムーズにすることができた。トイレ動作では、右手で手すりを握らせ、強 制把握を利用することで、介助量の軽減につながった。ADL 場面に応じて、強制把握の制限と利用を検討する必 要があると考える。 

 

(第50回 日本作業療法学会2016 口述発表)

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