医療法人 羅寿久会 浅木病院|福岡県遠賀郡遠賀町|神経内科|リハビリテーション科|内科|消化器科|循環器科

 

論文・学会・研修報告

 

論文・学会・研修報告

論文・学会・研修報告
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大腿骨頸部骨折・転子部骨折の治療にリハビリは不足している
2023-09-28
大腿骨頸部骨折・転子部骨折の治療にリハビリは不足している
       三好正堂
 
この度,大腿骨近位部骨折のリハビリについての論文を,「臨床と研究」に発表致しました.私は内科医で専門外ですが, 40年前から,この病気は気にかかる病気でした.治療期間が欧米7-10日,日本200日と10倍も差があったからです.
この病気の治療は,「早期手術」と「早期リハビリ」以外にありません.現に,欧米では,入院後24時間以内の手術を勧められております.日本では早期手術を行う必要はないとして,骨折後4〜5日に手術されるのが普通です.ガイドライン2021によると,最近の日本の平均は4.7日です.
しかし早期手術は必要だと思い,親しい整形外科医に頼んで骨折後1日目に手術をして頂きました.しかしながら治療成績は改善しませんでした.何故か? これが私たちの長年の疑問でした.
今回データをとってみて気づいたのですが(特に膝伸筋力),骨折後1日目に手術をしても,3〜4日目に手術しても結果は変わらないどころか,5〜7日,8〜19日目に手術をしても,治療結果は同じという結果が出ました.これは奇妙な結果で,骨折後19日目に手術して良いとお考えの整形外科医はおられないだろうと思います. 
問題の解決は,膝伸筋力を測定して分かりました.これによると,骨折した日に手術した例,2日目,3日目,4〜5日目,6〜7日目,8〜19日目に手術した例全てが,回復期病院(浅木病院)へ入院したとき,膝伸筋力が非骨折側で42%〜47%,骨折側で19〜24%に減少しており,両者とも著しく低下していることに気づきました.
この理由は,日本では術後のリハビリがせいぜい30分〜60分で,欧米に比して質・量ともに非常に不足しているからだと思いつきました.そのため回復期病院へ転院したとき,膝伸筋力が両側ともひどく弱くなっているためだと思いました.
欧米では,術後のリハビリが3時間,しかも歩行訓練が行われているのです.そのため非骨折側,骨折側とも弱くなる暇がないのです.
この病気の治療成績を上げるためには,早期手術以上に早期リハビリ,しかも3時間かけた歩行訓練が必要であることが分かりました.
臨牀と研究-100巻8号(令和5年8月)ー
 
16ヶ月間の回復でクロール泳法が再獲得できた急性弛緩性脊髄炎の一例
2021-11-14
左上肢近位筋・頚部・体幹筋に麻痺を呈した急性弛緩性脊髄炎の一例
~16カ月間にわたる回復過程と水泳動作の推移~
An acute flaccid myelitis patient with paralysis in left upper limb proximal,neck and trunk muscles:16 months recovery process and a change in swimming movement
 
和田 唯(OT) 新藤 亜美(OT) 三好 安(MD)
 
【はじめに】
 急性弛緩性脊髄炎(acute flaccid myelitis:以下,AFM)は稀な小児疾患であり,運動麻痺の部位や程度は様々だが,一般的に麻痺の回復は不良であり遠位筋より近位筋で回復が得られにくいとされる.本邦ではAFMの回復過程を詳細に記載した文献はなく,左上肢近位筋ならびに頸部,体幹筋の麻痺を呈した自験例の16カ月間にわたる回復と趣味である水泳動作の過程を報告する.
 
【症例】
 6歳女児.2018年某日,左上肢の脱力出現.髄液所見やMRIによる延髄下部~下位頚髄の灰白質病変等からAFMと診断.18病日当院外来リハビリ開始時には,左上肢弛緩性麻痺(active ROM:肩屈曲7°,外転26°,肘屈曲144°,伸展-65°,握力2.4kg)を認め,MMTは頚部,体幹2で,臥位での頭部挙上や起坐は不能だった.
 
【経過】
 週1回60分の外来リハビリに加え家族の協力のもとホームプログラム開始.学校生活では体操服,特に水着の着脱が困難で,水泳は入水のみでビート板に左手を添える事も困難だった.頚部や腹筋の筋力強化訓練,肩関節亜脱臼防止の装具作製,麻痺筋に対する自動介助の反復運動,ADL訓練等を行い,その回復の程度に応じて使用する道具の大きさや重さを調整し負荷を増大.9カ月後に体操服の着脱,10カ月後にビート板の支持,11カ月後に水かき,14カ月後に水着の着脱,16カ月後にクロールや背泳ぎが可能となった.装具も外し,最終的な左active ROMは,肩屈曲180°,外転180°,肘屈曲145°,伸展5°,握力14.5㎏まで改善.
 
【考察】
 AFMでは長期間にわたるリハビリテーションの継続が必須である.
 
(第5回日本リハビリテーション医学会秋季学術集会 eポスター発表)
 
重度片麻痺の早期リハでは, KAFOによる歩行訓練より起立-着席運動を推奨
2021-06-10
重度片麻痺の早期リハビリテーションでは, 長下肢装具による歩行訓練より起立-着席運動を推奨する
In rehabilitation of severe hemiplegia, we recommend stand up exercise than walking training with knee ankle foot orthoses
 
○髙畑起世子(PT),篠原敦(PT),小田原創(PT),加来剛(PT),三好安(MD),大里隆(MD),三好正堂(MD)
 
【はじめに】
 重度片麻痺の歩行改善には,長下肢装具(KAFO)による歩行訓練がガイドラインで勧められている.当院では,歩行の確立には健側肢と患側肢の筋力増強を優先すべきと考え,早期に装具を作製せず,歩行より筋活動の高い起立-着席運動から開始している.
 
【対象】
 過去8年間の入院者で,発症前は屋外独歩自立していた初発の重度片麻痺42例を対象とした.平均年齢61.8歳(36~87),回復期病院へ転院するまでの日数は発症後平均28.9日(10~80)で,  下肢麻痺はBr.stage 1:13,2:29,脳梗塞12,脳出血29,くも膜下出血1であった.
 
【結果】
 当院の平均在院日数は86.2日(47~143).装具作製までの日数は平均53.7日(19~89)で,作製装具は,短下肢装具(AFO)32例,KAFO 2例,未作製8例であった.KAFO 2例は時間を要したがAFOに移行できた.未作製8例のうち4例が装具なしで歩行自立し,他の4例は装具の適応がない介助歩行であった.退院時の歩行能力は自立22,監視14,介助6で,歩行自立までの平均日数は51.9日(13~101).膝伸筋力健常者比は入院時健側49.9%,患側2.8%,退院時健側82.8%,患側33.1%.Barthel Indexは入院時平均34.4点(0~65),退院時平均85.4点(30~100).
 
【考察】
 重度片麻痺の早期リハにはKAFOを用いた歩行訓練が行われるが,介助負担は大きく,また装具代も高価である.一方,起立-着席運動は装具なしで行うことができ,下肢筋力強化の効果が大きく,最終的に実用的な装具を処方できる.下肢stageが1,2の重度麻痺者で自立歩行になったのは22/42例(52.3%)と良好であり,早期リハの方法として起立-着席運動を推奨する.
 
(58回 日本リハビリテーション医学会学術集JARM2021 eポスター発表)
 
 
起立-着席運動でADL改善が得られた,結節性多発動脈炎に伴う多発性単神経炎
2019-09-13
起立-着席運動でADL改善が得られた,結節性多発動脈炎に伴う多発性単神経炎の一例
  永冨太一(PT),新藤亜美(OT),三好安(MD),三好正堂(MD)
 
結節性多発動脈炎(以下PN)に伴う多発性単神経炎は軸索障害であり,一般的に難治性である.この神経炎に対するリハビリテーションにおいては,いつから何を行うのか,どの程度の運動が過負荷になるのか等不明な点が多く,その報告も少ない.
今回、某日急に四肢麻痺になり,PNと診断され,ステロイド・パルス療法,次いでプレドニゾロン投与,筋力は全身的に低下し,四肢末梢の感覚脱失を呈した症例に対し,起立-着席運動(以下,起立運動)を行い,順調に回復した症例を経験した.
本症例は重度の神経障害・筋障害を伴っているにもかかわらず,起立運動を無理なく実行できた.これは起立運動が低負荷・高頻度であるため,患者への負担も少なく,過用症候群が懸念される疾患においても効果的である.また,十分な筋活動を期待でき,ADLの改善・廃用性筋力低下の予防につながることが示唆される.
(第56回日本リハビリテーション医学会学術集会JARM2019 ポスター発表)
 
更衣動作の自立に難渋した視覚性運動失調の一例
2019-09-13
更衣動作の自立に難渋した視覚性運動失調の一例
 
坪浦ななえ(OT),三好安(MD) ,由村健夫(MD),新藤和廣(OT),永冨太一(PT),中川原晴美(ST)
 
【要旨】
視覚性運動失調とは視覚性到達運動の目標から到達位置がずれてしまう徴候であり, 注視下で病巣と反対側上肢が把握不能だと最重症とされる.この障害は上肢の到達障害と報告されてきたが下肢の報告もある.本症例は入院時, 注視した中心視野およびその周辺視野に置いた標的を右上下肢で触れるという動作を評価したがいずれも不可能であり, 特に周辺視野では大きく的を外した.退院時にも同様の評価を行い, 中心視野での到達は可能になったが, 周辺視野では明らかな改善なく不可能のままだった.
 
これまでに視覚性運動失調患者のADLに関連した報告はなく, 本症例では上衣よりも下衣に難渋した.通常ズボンを使用した単純な反復練習では効果は出にくく,試行錯誤の段階では閉眼更衣・透明なズボン・縦ラインのズボン・横ラインのズボンを使用した.その結果,足を通すには目印を中心視野に捉える必要があり,足を通す方向を示す縦ラインが有効であることが示唆された.
 
(第56回日本リハビリテーション医学会学術集会JARM2019でポスター発表)
 
脳卒中回復期では入院時の起立動作能力によって退院時歩行能力の予後予測は可能か
2019-01-24
脳卒中回復期では入院時の起立動作能力によって退院時歩行能力の予後予測は可能か?
医療法人羅寿久会浅木病院 下山 洸平(PT) 三好 安(MD)
【はじめに】
脳卒中患者の歩行獲得に関与する因子として,年齢や運動麻痺,体幹機能,バランス能力,高次脳機能障害,認知機能面など多くの因子が影響するとされている.当院回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)では,脳卒中患者に対する治療として「起立-着席運動」を主に行っており,400~600回/日実施している.起立動作も歩行動作と同様に,麻痺の程度や体幹機能,半側空間無視などの高次機能障害など様々な因子の影響を受けることが考えられる.そこで,回復期病棟入院時の起立動作能力と,退院時の歩行能力の関係を後方視的に調査し,入院時の起立動作能力が歩行獲得の予後予測に有用であるかを検討した.
 
【対象と方法】
対象は,2014年1月から2016年12月までに急性期病院で治療後に当院の回復期病棟へ転院し,発症前の歩行能力がFIMで6点以上だった初発脳卒中片麻痺患者212名.その内訳は,男性130名,女性82名.平均年齢69.1±12.5歳.脳梗塞127名,脳出血85名.右麻痺104名,左麻痺108名.退院時歩行能力をFIMで6点以上を自立群,5点以下を監視介助群とする2群に分類し,以下の入院時データとの関連性を比較検討した.調査項目は年齢,下肢Brunnstrom Stage(以下,Brs),入院前日数,健側下肢筋力,および今回着目した起立動作能力の計5項目とした.なお,入院前日数は発症後当院回復期病棟に入院するまでの日数を,1~14日,15~30日,30日以上の3群に分類した.健側下肢筋力は,Isoforce GT-330(OG技研)にて健側膝関節伸展筋力の測定を行い,当院の年齢別健常者下肢筋力平均値を使用して%に変換した.起立動作能力は,40㎝高の台から起立動作を行い,手すり支持にて安全に実施できるものを起立自立群,監視を要するものを起立監視群,介助を要すものと実施困難であったものを起立介助群とした.これらの5項目に対して2群間比較(対応のないt検定,Mann-Whitney検定)を行った.目的変数を退院時の歩行自立の有無とし,2群間比較にて有意差を認めた項目を説明変数として多重ロジステック回帰分析を行い,変数選択(変数増加法;尤度比)により関連性を示すか検討した.統計解析にはSPSS 11.5J for Windowsを使用し,有意水準は1%未満とした.
 
【結果】
対象212名の退院時歩行能力は,自立群153名(72%),監視介助群は59名(28%)であった.2群間比較の結果,年齢,下肢Brs,入院前日数,健側下肢筋力,起立動作能力の5項目全てで有意差を認めた.多重ロジステック回帰分析の結果,退院時の歩行の自立の有無に影響する因子として,年齢,下肢Brs,起立動作能力が選択された(モデルχ²検定でp<0.01).年齢のオッズ比1.121(95%信頼区間1.065~1.180),下肢Brsのオッズ比0.646 (95%信頼区間0.470~0.887),起立動作能力のオッズ比3.911 (95%信頼区間2.160~7.081)だった.Hosmer-Lemeshow検定結果はp=0.871で,判別適中率は86.8%だった.以上の結果から,退院時歩行の関係性が強い項目として起立動作能力,下肢Brs,年齢の順となった.(表1)
 
【まとめ】
本研究では,多くの先行文献で歩行能力の予後予測因子として提示されてきた年齢や下肢Brsよりも,起立動作能力の方が退院時の歩行能力に対して強い関係性が示された。このことから入院時の起立動作能力が今後の予後予測の因子の一つとして提示できる可能性が示唆された。
(九州理学療法士・作業療法士合同学会2018in沖縄 口述発表)
 
介護用リフトの導入が自宅退院を可能にした重症脳卒中の一例
2018-09-22
介護用リフトの導入が自宅退院を可能にした重症脳卒中の一例
医療法人羅寿久会 浅木病院 小川僚(OT)甲斐玲(PT)新藤和廣(OT)三好安(MD)
【はじめに】
介護用リフトが介護負担や腰痛を軽減することは知られているものの,操作が煩雑で時間を要するなどの理由からわが国での普及率は低い.過去5年間で当院退院時に移乗能力がFIMで1点であった患者39名の転帰先およびリフトの導入率を調査したところ約4割の方が自宅退院し、約9割がリフト導入していた。(図1)
今回,高齢の妻が唯一の介護者であったにも関わらず,自宅退院へと繋げることができた脳卒中による重度片麻痺の症例を経験した.この自宅退院を実現させた要因として介護用リフトの活用があげられ,その導入から自宅退院までの経過と,在宅生活の追跡調査を報告する.
【症例】
80歳代,男性.右利き.身長170㎝,体重55kg.某日,右中大脳動脈領域に広範な脳梗塞発症.19病日(入院1日目)にリハビリ目的で当院入院.左完全麻痺,左半側空間無視,意識障害(Japan Coma Scale:Ⅱ-10)を認め,指示理解も困難であった.ADLはFIM:23点と全介助状態.80歳代の妻と二人暮らしで,妻は小柄(身長145㎝)なうえに肩痛,腰痛もあった.
【入院経過】
 入院時よりその重症度から多介助の状態で終わる可能性が高いと考えられたが,妻は「なんとか自宅に連れて帰ってあげたい」との強い希望があった.妻の体力では実用的な移乗動作はできないことが予見されたために,入院当初から介護用リフトの導入を視野に入れ,実際にリフトで移乗させている現場を見学してもらうように努めた.最初は,「手順が多く,私には難しい.」と言っていたが,入院14病日目より移乗時に協力するようになり,ベッド柵の取り外しや電動ベッド操作などを自主的に行うようになった.この頃から,「ずっと見てきたから手順を覚えてきた.手助けをしてもらえば出来るかもしれない.」と自信がついてきた.入院28病日目よりすべての過程を妻に行ってもらい,出来ていないところを助言,援助をする形で介入した.1回目は吊り具の敷き込み,ベッドから車椅子までの移動を含め9分50秒かかったが,徐々に時間は短縮し援助する回数も減っていった.退院時には援助することなく4分30秒で可能となり,「慣れると大変と感じない.」とリフトに対する印象が変わっていた.入院83病日目に希望であった自宅へ退院した.
【追跡調査】
1年後に追跡調査を行い,リフト移乗の時間は3分20秒と退院時よりさらに短縮していた.Zarit介護負担感尺度(短縮版)は退院時21点から10点と軽減していた.本症例の意識状態も改善し,簡単な会話が行えたり笑顔も見られたりするようになっていた.また,妻は気持ちに余裕ができたと趣味活動を再開していた.
【考察】
植松らは高齢脳卒中患者が自宅退院するための条件として,「移乗」と「家族構成人数」が大きく関与すると述べている.本症例は移乗動作に多介助を要し,高齢の妻との二人暮らしであったために在宅復帰は困難な状態だったといえる.わが国の高齢化社会の進行に伴い,今後老々介護で在宅生活を送らなければならない状況はますます増えていくと考えられ,介護用リフトを活用する意義が高まるのではないかと思われる.リフトの導入時には未経験のために不安や大変さを訴えることも予想されるが,本症例のごとく家族が操作方法を習得すれば身体的な負担が軽減され,気持ちにも余裕をもった在宅生活を送ることができることが示唆された.
(第52回 日本作業療法学会2018 口述発表)
 
 
感覚障害・不随意運動に対する調理動作の工夫(自作フィンガーガード)
2018-09-22
自作のフィンガーガードにより調理動作が可能となった両手指に感覚障害・アテトーゼ様不随意運動を呈した一例
医療法人羅寿久会 浅木病院 稗田夏実(OT)松本千歩(PT)新藤和廣(OT)三好安(MD) 
【はじめに】
視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica:以下NMO)(C₁-C₅)により四肢の麻痺ならびに重度感覚障害,両手指のアテトーゼ様不随意運動を呈した症例を担当した.ADLは徐々に改善し,Barthel index(以下:BI)は100点となり身の回りの動作は自立したが, 調理動作だけは両手指の深部感覚障害,アテトーゼ様不随意運動のために難渋した.本症例に適した自助具を検討し自作することにより調理動作が可能となったため,その工夫点を報告する.
【症例】
60歳代,女性.右利き.夫と二人暮らしで主婦.某日,NMO発症.リハビリ目的にて当院入院.入院時,四肢麻痺や重度感覚障害(右<左)を認め,ADLはBI 5点と全介助状態だった.また,両手指にはアテトーゼ様不随意運動を認めた.運動能力・表在感覚は次第に改善し,BI 100点になったが,両手指の深部感覚障害,不随意運動は残存し,簡易上肢機能検査(STEF)は右:88点,左:78点と左手の巧緻性低下が目立った.握力は,右:17.7㎏左:13.5㎏.退院に向けて本人の希望に添って調理訓練を実施した.なお,本報告を行うにあたり,症例より口頭および書面にて同意を得た.
【経過】
調理動作は「切る」以外の動作は両手で安全に行えた.しかし,切る動作だけは両手指に認めた深部感覚障害,アテトーゼ様不随意運動により上手く行えなかった.具体的には,左手は食材を固定することが出来ず,右手は包丁が滑ってしまい,本人からも「指が勝手に動くから怖い」「指を切りそうになる」との発言があった.安全面を考慮して片手のみで行える調理方法を進言したが,本人の受け入れは悪かった.そこで,包丁の持ち手の位置が変えられるUDグリップ包丁と2個の指穴に第2,3指を入れて指先をガードする市販のプラスチック製フィンガーガードを用いて実施した.UDグリップ包丁は上肢にて力が入りやすいように持ち手の位置を真上に設置すると,安定性・操作性ともに問題なく使用できた.しかし,市販のフィンガーガードでは,①第2,3指は指穴への固定により保護されるが,第4指は固定されずに不随意運動で動くために危険である.②固定面が平坦で食材の固定性が悪い.③ガード面の面積が手指を保護するために十分な大きさではないという3つの問題点があがった.その対策として,①には第2指~第4指を固定するための3つの指穴を設置.②には安定した固定のため接地面を鋸歯状に変更.③にはガード面積が広くなるように工夫し,スプリント装具素材で作製した.作製したフィンガーガードでは左手指を切る危険性がなくなり,食材を安定して固定出来るようになった.1日30分の訓練を10日間行い,本人の不安感もない安全な動作が可能になった
【考察】
花岡は,上肢の感覚障害は家事遂行上,視覚代償や麻痺肢の使用場面の限定等により予測される負傷や事故防止を図る指導・教育が必要であることを述べている.本症例では視覚代償のみでは安全性が保てず,感覚障害ならびに不随意運動を両手に認めていた.そこで,調理動作の観察や本人の感想などにより問題点を明確にし,それを解決できるような自助具を自作することで料理動作を再獲得することができた.患者のニーズや障害像に合わせた自助具を検討し自作することで,安心した生活が送れる援助になり得ることが示唆された.
(第52回 日本作業療法学会2018 口述発表)
 
麻痺側からの袖通しよりも健側からの袖通しが有効だった着衣障害の一例
2018-09-22
麻痺側からの袖通しよりも病前の習慣である健側からの袖通しが有効だった右頭頂葉皮質下出血による着衣障害の一例
増田馨織(OT),新藤和廣(OT),松本千歩(PT),三好安(Dr)
 
【要旨】
着衣障害は,運動・感覚障害,視覚障害,視覚認知や空間認知,動作や行為の高次機能障害など様々な要因によって生じる.片麻痺を伴う着衣障害では,頭通しと袖通しのどちらを先に行うかは各症例によって検討されるものの,袖通しの順序については健側よりも患側から先に行う指導が一般的である.
今回,従来の患側からの袖通しを反復練習するも動作の習得が困難であり,病前の習慣的な着衣方法であった健側からの袖通しにより動作が自立できた右頭頂葉皮質下出血による着衣障害の症例を経験した.
本症例のごとく,左片麻痺が軽度であり左半側空間失認が着衣障害の主因と考えられる場合には,病前の習慣的な着衣動作を優先したアプローチ方法が有効なこともある可能性が示唆された.
(九州理学療法士・作業療法士合同学会2017でポスター発表)
 
顔面麻痺に対するスプリントの治療効果
2018-09-22
顔面麻痺に対するスプリントの治療効果
 塩川 剛弘・山近 妃呂乃・坪浦 ななえ・下田 和代・三好 正堂
 
顔面麻痺には中枢性麻痺と末梢性麻痺の2つがあり,両者とも一般に回復は良好であるが,中には重度麻痺を残すこともある.脳卒中における顔面麻痺は中枢性麻痺であるが,多くは保存的に治療され,また訓練法の記載は比較的少ない.しかし詳しく聞いてみると,容貌が醜くなるという問題だけでなく「口角から食べ物がこぼれる」,「よだれが出る」,「しゃべりにくい」などを訴えることが少なくない.
脳卒中による顔面麻痺の3症例(急性例2例,慢性例1例)に顔面スプリントを作製し,睡眠以外の時間は食事中も装着した。その結果,食事しやすく,話しやすくなる効果が得られた.慢性例の1例は発病後17ヶ月以上経過していたにもかかわらず,麻痺の回復も得られた.
(総合リハビリテーション 第46巻 第3号 2018年)
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